甲子園の思い出

 平成25年1月27日の記事(福井新聞より) 自ら考える姿勢養う

自ら考える姿勢養う
【一瞬も聞き逃すまい、と真剣なまなざしで川村監督の教えを聞く春江工ナイン】
 「絶対にセンバツに行く。これは、宿題だ」新チーム発足間もない昨年8月、春江工の川村忠義監督は選手を集め、こう宣言した。
 川村監督は、福井商高でセンバツを経験。日体大では主力打者で活躍し、全日本選手権に出場した。指導者としても南越中で県大会優勝、前任の羽水高でも北信越大会に3度導く。だが春江工野球部長として赴任した2009年春、「こんなこともできないのか」と思うことがいくつもあった。それは技術やプレーではない。むしろ野球人としての考え方、野球に取り組む姿勢だった。
 監督就任の同秋から「我慢比べ」と振り返る。選手の意識改革が始まった。地域から愛され、応援されるチームにならないと強くならないと、身だしなみを整えさせた。通学路のごみ拾い、あいさつを徹底、継続させた。選手は次第に変わり始める。そして選手、人として「絶対逃げるな」と言い続けた。
 「野球以外でも自分で課題を克服する力を付けてもらいたいから」と練習では課題を与え、自ら考えさせ、悩むナインには解決へのヒントを与える。すぐには答えを出さない教えは、ナイン同士が語り合うようになりチームを一つにさせた。大崎主将は「監督の熱い気持ち、言葉に心打たれた。何のための練習かを、自分で、チーム全員で考えられるようになった」不動の1番打者に成長した西は「監督に絶対センバツに行くぞと言われ、絶対行ってやる、とやる気スイッチが入った。監督の言葉を聞くと、力がわくんです」
 監督就任から丸3年たった昨秋。教えを信じ貫き通した選手は、どんなチャンスやピンチでも、チームのために今、何が求められているのかを冷静に考え、互いを信じ合う力が備わっていた。
 県大会、北信越大会で勝利した8試合のうち逆転勝ちは6試合、2点差以内の勝利は7試合を数えた。競り合いに強さを発揮し「ミラクル春江工」の異名が付いたナインは北信越大会を制し、監督が昨夏に課した宿題の「答え」を出した。センバツ初出場。
 センバツが決まった25日の練習後、監督はナインを集め、こう伝えた。「君たちは出場チームの中で一番弱い。今のままでは勝てない。しかし君らなら絶対やれる。逃げるな」ナインに、甲子園初勝利という次の宿題を課した。

 平成3年7月29日の記事(福井新聞より) すきなし炎の猛打 6回満塁アーチ 丹生2塁踏めず

すきなし炎の猛打
【1回表福商二死一、二塁、山口が左前打を放ち、二塁から南が生還し先制点を挙げる 】
【評】福商は川村の満塁本塁打など、17安打の猛攻で丹生の繰り出す四投手を打ち崩し、投げては峯田らの継投で丹生を3安打に抑え圧勝。八年連続決勝にコマを進めた。
 福商は一回、立上がり制球に苦しむ大橋から四死球を足場に1点を先制。三、四回にも加点して迎えた六回一死後、峯田が中前へ二塁打。佐々木が右飛で倒れた後、井上が死球。山岸の遊ゴロが敵失を誘い、峯田が生還した。続く南は四球となって二死満塁。ここで川村が大橋の五球目を左翼へ運ぶ本塁打を放って一挙4点を奪い丹生を圧倒。さらに追撃の手を緩めぬ福商は、丹生の継投を打ち崩し、八、九回にも計3点を挙げ11点差とし丹生の逆転の夢を打ち砕いた。
 丹生は何度か出塁したものの、福商、主戦峯田と加藤、花山の継投に3安打に抑えられ、二塁を踏むことなく終わった。
川村忠義
 大会史上九本目の満塁本塁打を放った川村は「やっぱりホームランはいいものですね」とニッコリ。4点をリードして六回、満塁の好機に「とにかく思いっきり」と打席へ。試合前、知り合いに前に突っ込む姿勢を指摘され、この日は重心をどっしりと据えての構えを取った。フルカウントになり「センター前に返せれば」と外角中寄りの直球をスイング。「二塁を回るまでホームランとは分からなかった」と言う。本塁打は公式戦では3本目。「自分はホームランバッターではないので、打った直後は無我夢中で良く分かりませんでした」と喜びいっぱいの表情だった。
【北野監督 挑戦者のつもりで】
 福商は安定した地力を見せて快勝。北野監督は「まあこんなところでしょう」とまず一言。しかし一方的ではあるものの打線がつながらず「確実に好機を生かし切っていない」と反省点を指摘。主戦、峯田についても「気を抜く部分がある。休むのはベンチに帰ってきた時だけ」とゲキを飛ばした。いよいよ決勝、福井戦。「春、負けているし、挑戦者のつもりで臨みたい。それぞれの持ち味を発揮してくれれば」と意欲を燃やしている。

 平成3年7月30日の記事(福井新聞より) サヨナラ押し出し 福商"痛恨"の幕切れ

サヨナラ押し出し 福商痛恨の幕切れ
【8回裏1死二、三塁、杉本の投前への打球でスタートの遅れた伊藤が三本間に挟まれるが、捕手清水の落球で3点目を入れる】
 【評】決勝戦にふさわしい1点を争う息詰まる展開。大会史上四度目の決勝での延長戦は、終盤に激しい追い上げで同点に持ち込んだが福井が、十一回に四球でサヨナラ勝ちするあっけない幕切れとなった。福井は六年ぶりに夏は四度目、春夏通算五度目の甲子園行きを決めた。
 同点で迎えた延長十一回、福井は、上丸の中前打に続き、坂本の四球で無死一、二塁。さらに木原の送りバントが清水の三塁への野選を誘い、無死満塁とした。代打に登場した豊増はファウルで粘った。フルカウントに持ち込んでからの7球目、峯田の直球は無情にも内角低めにはずれた。痛恨の押し出しで、上丸が小躍りしながら本塁を踏みガッツポーズ。3時間25分の熱闘に終止符を打った。
 福井・木原、福商・峯田の両エース先発で始まった決勝戦。3点差で迎えた八回、福井は敵失をきっかけに橋本の中犠飛と板本の左翼線二塁打などで同点に追いつく粘りを見せ、勝利へつなげた。
 この試合、序盤にリードしたのは福商だった。
 初回の二死から中前打の川村を一塁に置き、今大会安打のなかった主砲北山が左翼席へ大会第3号の2点本塁打を放った。三回にも川村、北山の連続三塁打などで1点を加え、主導権を握ったかにみえたが、後半、福井に追いつかれた。
 福商は四回と八回に内野陣の乱れで計3失策をマーク。これがいずれも点に結びつく致命的なものだっただけに、悔やまれる。
 投手戦の予想に反し、両投手は打ち込まれた。木原は前半、球が高めに浮き連打を浴びたが、後半よく持ち直して七回以降福商打線に三塁を踏ませなかった。
 二年生ながら161球を投げ抜いた福商の峯田は、連投の疲れからか変化球の制球にサエが見られず涙をのんだ。
 福商は14安打で5得点、福井は8安打ながら14残塁と、どちらも攻撃に粗さが目立ったのが残念だった。

 平成3年7月30日の記事(福井新聞より) 悪夢の福商またV逸す

悪夢の福商またV逸す
【逆転負けを喫し三塁側スタンド前へ無念の表情で整列する】
 最後の打者、代打豊増に全身の力を振り絞って投げた球が低めに外れた瞬間、峯田はその場に崩れるように座り込んだ。頭を抱えたまま立ち上がらない峯田をチームメイトは励ますように立ち上がらせ、重い足取りで本塁前へ向かった。
 大野戦で先攻を選んで逆転勝ちし、決勝もこの勢いでとの北野監督の思惑が的中したかにみえた。主将、北山がいきなり2点本塁打。準決勝まで無安打で「決勝こそは活躍を」と気にしていた北山は「勝った試合だと思った」と言う。四回に反撃を許したがすぐさま2点を追加、ベンチは必勝ムードだった。
 主戦峯田は何度かピンチを迎えたが、連投で疲れた体を奮い立たせ力投。制球難に苦しみながらも、迫る福井打線を七回まで4安打に抑えしのいだ。
 しかし、八回、悪夢が始まった。カーブの制球にあえぐ峯田の直球は次第に調子を取り戻した福井打線に捕えられた。緊迫したゲーム展開に硬さが出たのか、狭殺失敗での得点を許し同点に。だが、延長に入ってからも「終わりまでチームのムードは良かった」と言うように、九、十回と安打を出し優勝は手の届くところにあった。しかし、勝利の女神は微笑まなかった。四球押し出しという二年の峯田にはくやしい負け方だった。試合終了後、硬い表情の峯田は、「緊張の緩みはなかった」と語った。

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