甲子園の思い出

 昭和48年8月13日の記事(朝日新聞より) 夏の甲子園初めての一勝 機動力の福井商 前橋工は浮足立ち沈黙

機動力の福井商、前橋工は浮足立ち沈黙
【夏の甲子園初めての一勝 機動力の福井商 前橋工は浮足立ち沈黙】
 鳴りをひそめていた福井商打線が三回に爆発した。先頭近藤が二越え安打、水野が四球を選んで上位打線へつなぐ。巧者長谷川伸が投手左へバント安打を決め、これが悪送球をさそって1点。落ち着きをなくした小池の胸の中を見すかしたように中野が左前へ追いうちをかけ、左腕の小池を攻略した。完全に主導権を握った福井商は代わって右の下手投げ向田にも、島田の中越え三塁打など連続3長短打を浴びせて大量5点をもぎとった。いったん勢いづくと手のつけられない福井商打線、チャンスの芽を主軸が実らす理想的な攻撃だった。
 早い回に深い傷を負った前橋工は浮足立ってしまった。四回一死で三番の山本が中堅頭上を抜きながら、三塁コーチの制止を無視して三塁へ走り、寸前でタッチアウト。六回の二死一、二塁では山本の中前打で二塁走者が強引に本塁を狙って刺されてしまった。二度とも次の打者は四番の平沢。点差を考えればじっくり攻めるのがセオリーである。
 逆に福井商は7個のバントを使い、そのうちスリーバントが三度、四番島田に二度もやらせた。前橋工にそうしたどん欲なまでの得点意欲と、大量失点にも動じぬ冷静さがあれば、あるいは後半の反撃へ望みをつなぐことができたかも知れない。

 昭和48年8月18日の記事(毎日新聞より) 福商、川越工に屈す 中盤の反撃及ばず 初回攻め込まれ動揺

福商、川越工に屈す 中盤の反撃及ばず 初回攻め込まれ動揺
【福商、川越工に屈す 中盤の反撃及ばず 初回攻め込まれ動揺】
 立ち上がりを心配された福商・水野投手は初回、先頭打者に対しポンポンと2ストライクを取った後5球目で遊ゴロ。名手戸板が軽快なフットワークで1アウトと思った瞬間、一塁へ悪送球。この思いがけないミスが福商のリズム全体を大きく狂わせてしまった。送りバント失敗の一死後、水野は制球に苦しみ三番蛭間に四球を与えて一死一、二塁のピンチを招いた。続く須長は左打者。左対左で有利かと思われたが2-2から外角の直球を中前へ打ち返された。しかも走者を本塁で刺そうと前へ突っ込みすぎた長谷川伸選手のグラブの下を球は無情にもくぐり抜け左中間へ転々。中継ミスのおまけまで出て須長も生還、3点の先行を許してしまった。
 ここで川越工はすっかり波に乗り二回にも二死から高橋が四球を選び、再び左打者の安田が同じような外角球を左中間へ流し打ち、1点を追加し完全に主導権を奪った。
 福商はなんとか自分のペースを戻そうと懸命にもがいた。四回までは川越工の投手、指田の絶妙の投球に全く、手が出なかった。しかし1点を追加された五回裏、島田の二塁左の初安打を足掛かりに指田投手を攻めた。野村の二ゴロで島田は二封されたが中村の二ゴロは野手の悪送球で一死一、二塁。水野を救援した筧もつまりながら右前へ運び満塁と詰め寄った。ここでラッキーボーイ近藤が右前へテキサス安打、野村かえって1点をかえし、なおもチャンスが続いたが水野の遊ゴロ併殺でかわされたのは惜しい。
 しかし福商は粘った。六回にも筧が四つの四死球を与え1点を許したがその裏、中野が一死後、遊ゴロ失で出塁、戸板の2球目は遊ゴロとなって球は6-4-3とわたり併殺で一たん攻守が交代したが、この時指田投手にボークが宣告され、一死二塁と息を吹き返した。ここで戸板は三遊間適時打、続く島田も三遊間を破り押せ押せムードになったが、中村の右大飛球が好捕され力尽きた。
【北野監督】
 川越工は県予選で左投手を攻略し、水野投手に対しても自信を持っていたようだ。指田投手はコントロールが良かったので外角直球を、一部の打者にはシュートを狙わせたが、つまってしまった。結局、前半に点を取られペースがつかめなかった。
【戸板主将】
 相手投手は体も小さいし球も打てそうだった。でもいざ打つとみんな、つまってしまった。試合は楽な気分でやれたし、そう調子も悪くなかったのにどうしてこんなことになってしまったのか、さっぱりわからない。

 昭和48年8月18日の記事(毎日新聞より) 粘りむなし 福井商 ベスト8への意識が・・・

粘りむなし 福井商 ベスト8への意識が・・・
【粘りむなし 福井商 ベスト8への意識が・・・】
 三十七年ぶり二度目の夏の甲子園。初めての三回戦進出。「川越工に勝てばベスト8だ」という意識が、ナインを押しつぶした。報道陣に囲まれても戸板主将は、声を上げて泣き続けた。くやしさをこらえ、やっと応対しはじめた戸板主将だが「初回の遊ゴロを暴投したので、水野投手が乱れた」と、責任感にまた涙。水野投手は「県大会でも点をとられ、ナインに迷惑をかけていたので、失策には動揺しなかった。五十点以下の投球だ」と、同僚をかばう。だが女房役の中村捕手は「試合前の練習は最高だった。やはりエラーでがっくりしたようだ」という。予選ではわずか1失策の堅守を誇った守備の乱れは、ベスト8を意識した時から始まったといえる。
 打線も不発に終わった。初打点をたたき出した近藤一塁手は「打てると思っていたのに・・・」と、1打点に不満そう。2失策の戸板主将は「ボークで生き返ったので、必ず塁に出ろ、と自分に言い聞かせた」と、2点目のタイムリー打の感想を話す。どの顔もくやしさがあふれ、夕暮れの甲子園の秋雲も、目にはいらなかったにちがいない。

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